制作:米国ジストニア調査研究財団
翻訳・日本ジストニア協会(監修:京都大学神経内科電気生理研究室)
ジストニアは病気と病気のグループの名前の両方を意味する言葉です.その特徴は、身体の1つまたはいくつかの部分の筋肉が不随意に収縮し続ける結果, 身体のいろいろな部分でのねじれやゆがみが生じることです.
ジストニアの原因は、脳の一部の基底核と呼ばれている部分の機能障害と考えられています.このジストニアでは,知的な機能に障害はありません.ジストニアは、震えを伴うことがあります.時には,よくある老人の震えのような,粗大な震えや不規則なけいれんが見られます.
ジストニアには数多くの分類法があります.侵される身体の部位による分類のほか,原因が分かっているもの(二次性)や,分かっていないもの(突発性)などです.現在,一番良く用いられる分類は,下記の通りです.
ジストニアにおける筋肉の引っ張りやねじれは,中枢神経の機能の異常によるものと考えられています.ジストニアで障害をされている脳の部分は基底核と呼ばれています.基底核は脳の中心にあり,いろいろな運動をコントロールしています.
ジストニアが他の病気の後遺症として二次的に起こる時,たびたび病変は大脳基底核の中(特に淡蒼球putamen)に,MRIやCTで病変が見つかったり,顕微鏡的変化があることがあります.
しかし,大半のジストニア(突発性捻転ジストニア)の場合,脳の顕微鏡的異常を見ることはありません.二次的なジストニアにおいて,病変が上に述べた場所にあるため,やはりこの病型でも,脳の同じ部分が侵されるものと考えられます.これら大半のジストニアの病型でも解剖学的な変化が見られないということから,病気の性質が,化学的なものであると考えることもできます.いまだに,その化学的な異常の本態は分かっていません.
もし,ジストニアのほとんどの場合の主たる異常が化学的なものだとしたら,あるいは,治療の可能性を示唆するものかも知れません.それに対して,病変が解剖学上か構造上の変化であるとしたら,治療としては少ししかできることはありません.その場合,神経細胞を修繕したりする方法はいまだに分かっていません.将来,外科的なアプローチができるかも知れません.
ジストニアの進行を予言することは困難です.私たちは,もしもジストニアが家族の別のメンバーにも見られたり,症状が幼年時代に始まったとしたら,年を追うごとに悪化すると言うことができます.けれども,これらのケースの中でさえ,進行が止まったり,事実上,部分的な症状であったり,完全に回復したりすることはよく知られています.これらの例があることは,確かに私たちに希望を持たせてくれます.
もし,その症状が幼年時代に始まり,脳性小児マヒや,大脳の病変による二次的なものの場合,そのジストニアは長年,同じ症状である傾向にあります.脳性マヒによる二次的なジストニアのうち,少数の例は大人になってから進行することがあります.しかし,これらのケースはとても稀です.
ある種のジストニアが遺伝するとの見方は,明らかになっています.ここ10年の間に,この分野におけるジストニアの知識は飛躍的に進歩しました.現在,ある種のジストニアは遺伝するといえます.専門的には一定の浸透度で常染色体性優性の遺伝形式と呼ばれています.
優性という意味は,一組の夫婦の子供のそれぞれが,異常のある遺伝子と正常の遺伝子を半々の確率でもっています.ある人が遺伝子を持っている時,その人は病気を発症するか,少しも徴候が見られないこともあります.たとえ遺伝子が異常でも,発症する確率は30〜80%です.
遺伝するといっても,病気の重症度は家族内で著しく違うことがあります.たとえば,軽症のジストニアに侵された母親の子供が,重い全身性のジストニアを持つことがあります.ところが,一方,別にもっと軽い局所性の進行しないジストニアになることもあります .また,同じ家族の子供で遺伝子を事実上持っていても,全く症状がないことがあります.しかし,そのような軽症の人,無症状の人でも,その子供に遺伝子は受け継がれることはあります.
ユダヤ人タイプの捻転ジストニアと,ユダヤ人以外の家族においてXandra Breakfield医師,Stanley Fahn医師らは,9番目の染色体の一部に遺伝子の異常を見出しました.しかし,家族間でその遺伝子自体がまだ同一であるとは分かっていません.これについては,近々,より詳しいことが分かると予想されています.
いったん遺伝子が見つかると,次のステップは,その遺伝子の役割を知ることです.おそらく,それは細胞の蛋白質の製造に影響を及ぼすものでしょう.それなら,治療としてその欠陥の蛋白質にとって代わる物質を作ることができるかも知れません.
ジストニアは比較的まれな病気で,異常な動作や姿勢があり,早い段階においては,ストレスや情緒により影響されることもあります.多くの医師は症例を見たことがなく,医学校ですら十分に教育されないことが多く,十分な知識があり,正しい診断ができる経験のある医師を見つけることは,たびたび困難です.
もし,このパンフレットの読者が,ジストニアに罹っているかもしれないと疑いを持ったとしたら,最良の方法は,運動障害を専門とする神経内科医に診察してもらうことです.ほとんどの大学と大きな都市で,そのような医師が見つかります.見つからなければ,ジストニア協会に問い合わせたり,意見を聞いたりすることができます.
もし,ジストニアと診断がついたなら,医師が一番最初にすることは,注意深く家系を調査し,局所性または全身性ジストニアを持った人を捜します.ほんのわずかな「首の曲がった人」(斜頸)にさえ注目すべきです.それに,あらゆる種類の手や足の震えも注目すべきです.この情報は決定的な意味のある遺伝の証明となります.
第2番目に,どんな療法が適切かを考えてみるべきです.ジストニアについての豊富な経験をもった神経内科医が,あなたの主な指導者となるべきです.たくさんの薬が利用できますが,たった2,3の薬しか一個人に対して効きません.どんなにたった1つの薬でも,かなり有効か,わずかに有効か,全く効かないのか,を確かめてみなくてはいけません.1つの薬を試した後,効かなければ別の薬を試すことが必要です.
主に用いられる薬には,次のようなものがあります.
ニトーマン(テトラベネジン)はたびたび有効です.しかし,アメリカでは利用できません.
ソラジン(クロールプロマジン) とハルドン(ハロペリドール),そして,フェノチアジンやブチロフェノンのグループは治療に役立ちます.しかし,遅発性ジスキネシアと呼ばれる症状を引き起こすという一面があり,非常に慎重に使わなければなりません.
眼瞼痙攣,メイジュ症候群,斜頸,痙攣性発声障害といった局所性ジストニアには,ボツリヌストキシンの注射がとても有効な治療法となっています.そのジストニアが筋肉の限られた範囲だけ関係しているとき有効です.その治療法は3〜4か月ごとに繰り返す必要はありますが,その間たびたびよく効きます.その治療は,それを治療するのに相当な訓練を積んだ医師によってのみ行われることになっています.喉頭のジストニアはどの治療より一番難しく,選び抜かれた資格のある医師によって特別な注意を払って行わなければなりません.
外科的処置の幾種類かは,ジストニアに有効といって差し支えありません.これは,万が一,薬物療法では全く効き目がなく,ジストニアの激烈な苦しさが増すときのみ,十分に熟慮して行われます.モントリオールのクロード・バートランド医師とそのグループは斜頸のとても有効な手術を開発し,訓練されています.その手術では,首の中の脊髄から出ているたくさんの神経根や,異常な運動を示す筋を支配する神経の枝を切ります.
別の手術として知られているのは,定位視床切除術です.この手術では頭の奥深くにある,ある通路(視床)を遮り,半身のジストニアによく効きます.この特別な手術は,広範囲の経験のある神経科医によって行われなければなりません.手術直後は効いている場合がありますが,すぐにまた,元に戻ることがあります.
デビッド・マースデン医師は,次のようなアドバイスを患者さんに行っています.
「あなたのこの病気に対する心構えが,病気の症状を決定づける一番重大な要素の1つになります.ジストニアでは死にません.しかし,あなたが倒れたら,あなたの生活がだめになってしまいます.あなたの病気の本質を学ぶとき,ショックを受け,怒り,絶望し,意気消沈し,そして,受け入れて行くという場面を通って行くことは,とても自然なことです.この展開に時間はかかると言ってよいでしょう.しかし.あなたは,あなたの病気の現実を,できるだけその最後の受け入れ場面まで肯定的に行動しなければいけません.そして,この病気にいかにして打ち勝つかを見つけていくべきです.これらの問題について,あなたのご家族や医師と話し合ってください.
ジストニアに罹っている他の方からも,多くのことを学ぶための手助けをしてくれる組織があります.財団では,地方支部と協会のリストを用意しています.あなたは,たくさんの闘病を経験してきた人で,他の患者の手助けを厭わない人を見つけることができるでしょう.
いま,アメリカでは大きな研究プロジェクトが続けられています.そのほとんどがジストニア医療調査財団の寄付によって運営されています.いくつかの調査は現在,国民健康協会の寄付によって設立されていますが,すべての源となる調査研究費はもっと必要です.ここ10年間における主な調査研究費は,この病気を研究している研究者に支払われています.次の2,3年の間にも,このような募金や治療のための研究がなされる予定です.
(このジストニアに関するパンフレットは,諸般から最新版まで,アメリカにおけるジストニア調査研究財団の科学責任者チャールズ・エイチ・マーカム医師によって,1985〜1994に書かれました.)
ジストニアの森